――電気分解をした水を計る指標として、pHや酸化還元電位(ORP)が用いられているようですが、先生は、IP(Ionic Product of Water)という理論に基づき、pIPという指標で電解水を計ることが、もっとも電解水の本質を表すことができるとおっしゃっておられますね。これはどのような考え方によるものなのでしょうか。中学生にもわかる程度にわかりやすく説明していただけませんか?

花岡博士:気温25℃、1気圧のもとでは、水はごく僅かにマイナスイオン(陰イオン)とプラスイオン(陽イオン)に電離しています。水の解離定数というのを高校で習ったことを覚えているかもしれませんが、Kw= 10-14です。電離した陰イオンと陽イオンを掛け合わせた濃度は常に一定であるとみなされているんですね。pHというのは水素イオン指数のことですが、これは解離定数の、10-XのマイナスをとっぱらってXを表したものです。そして真ん中の7を中性とし、7より数値が小さいものを「酸性」、7より数値が大きいものを「アルカリ性」としています。

けれども、pH測定をした場合、水溶液中に溶け込んださまざまなものを一緒に計測してしまいます。たとえば水溶液中にマグネシウムやカルシウムなどがたくさん含まれていれば、pHの数値は高まりアルカリ性になります。たしかに水道水を飲むよりは、カルシウム剤を入れた電解水の方が、カルシウムを多く摂取できますが、それを目的として解離水を飲む人は少ないでしょう。pHというのは電解水の注目すべき特質を表しているわけではありません。極端な話、水にタバコの灰をいれてもpH数値はアルカリを示しますが、これを飲もうと思う人はいないでしょ(笑)。

――なるほど、そこまでは理解できました。酸化還元電位(ORP)に関してはどうなのでしょうか。ORPが低い方が、よい水だと聞きますが…。

花岡博士:酸化還元電位を下げる上でもっとも大きな働きをしているのは、溶存水素です。電気分解によって得られた溶存水素は活性酸素のひとつである過酸化水素(H2O2)を消去すると考えられますので、確かにその点ではORPの低さはひとつの指標になると思います。しかし、ただ単にORPを低くしたいのであれば、水素ガスを注入すればORPは下がります。けれども水素ガスを注入した水が、果たしてスーパーオキサイドラジカル(O2-)などの活性酸素を消すかというとそうではないのです。
要するに、pHもORPもどちらも電解水の本質を表した指標ではないのです。これらは水の中に溶けているものに左右される数値です。溶液の中に溶けたものを溶質、溶かすものを溶媒と呼んでいたことを覚えていますか?

――そういえば、そんな呼び方をしていたような…。

花岡博士:pHもORPも溶質(溶けたもの)に大きく影響される指標なんです。もしも解離水の中に、なんらかの特性をもった遊離イオンがあるならば、それを測定することで指標にするのが一番わかりやすいのですが、残念ながら解離水そのものにはヒドロキシラジカル(・OH)やスーパーオキサイドラジカルを消去する力はありません。
では、「解離水の特性はいったいどこにあるのか」ということになりますが、解離水は活性酸素に対抗する抗酸化力を増幅させる力をもっています。このことは電子スピン共鳴法(ESR)を用いた分析によって判明しています。ビタミンCに解離水を加えると、水道水や不純物を含まない純粋な水にビタミンCを加えたときよりも抗酸化力が増しているんですね。

――抗酸化力を増幅させる力が解離水の特性ということですか。

花岡博士:そう。エンハンス(enhance)させるのです。抗酸化力を増強、増幅させる作用、エンハンスこそが解離水の持つもっとも大きな特徴なんです。これは何によるのかといえば、解離=電離によるんですね。そこで電解水の性質を解離度の面からもっともわかりやすく表すために、イオン積の指数からマイナスを除いたpIPという指標を使えばよいと考えたわけです。pHやORPのように、他の要因によって左右されがちな数値ではなく、電解水の力をその特性にそった形で表現する数値がpIPなのです。
――pIPで表すと水道水と解離水はそれぞれどんな数値になるんですか?

花岡博士:常水はpIPが14ですが、解離水は、13.19になります。

――それがどれくらいの差になるのかさっぱり見当がつきません。

花岡博士:たとえば超臨界水というのがありますね。特殊な装置を使って水を218気圧(22.0メガパスカル)で374度にまで加熱していくと、液体でも気体でもない状態になるんです。そこが臨界点になるのですが、この臨界点以上の圧力と温度の水を「超臨界水」と呼んでいます。

――はぁ。気体でも液体でもないような、ですか。

花岡博士:超臨界水、あるいは「亜臨界水」というのは、非常に反応性が高い水です。カネミ油症問題で騒がれたPCB(ポリ塩化ビフェニール)、これは化学的に安定していて、非常に分解されにくいやっかいな物質ですが、このPCBやダイオキシンなども超臨界水は分解してしまうのです。社会問題になっている産業廃棄物も水の力で解決できるのではないかと、今さまざまな研究が進められています。水の化学反応がもっとも高いのは、超臨界水に至るちょっと手前の「亜臨界水」なのですが、このときのpIPは11です。

――そんなものは飲みたくない(笑)。解離度が増すほど、pIPの数値が低くなるわけですね。解離度が増すといったいどのような変化が起きるのでしょうか。ひとつわかりやすくお願いします。

花岡博士:ひとことでいえば、反応性が高まるということなんです。反応はイオンの衝突で起こりますが、衝突の回数が多ければ多いほど反応が起きやすいわけです。そうだな…、7時で閉まる銀行のキャッシュ・ディスペンサーからお金を引き出そうと、ギリギリに駆けつけたら10人並んでいたとしましょう。ATMが一台しかなければ待たされている間に時間切れになってお金が引き出せなくなるかもしれないが、機械が5台あれば、一度に5人お金を引き出せる。処理能力が増えると効率がいいわけですね。ATMの台数はpIPの数値が低いほど増えていく。あくまでもイメージですが、そんな様子を想像してください。
衝突回数が多くなり、反応速度が早まれば、反応性は高まりますから、解離が小さくて反応しにくいものをも反応させる力を持つことになります。電解していない水よりも電解した水、その中でも解離度の高い水の方が、この力が強くなるというわけです。

――だから解離水を飲むと、ビタミンなどの抗酸化力がアップするというわけですね。

花岡博士:重要なのは、抗酸化作用をどれだけ引き出すことができるかという点です。たとえばビタミンCを例にとってみましょう。私たちは自分の身体のなかでビタミンCを生成することができませんから、主に食事から摂取します。多量にビタミンCを採っても体外に排出されますが、白血球や血漿などにも貯蔵されているのです。反応性の高い解離水を飲むことによって、体内に貯蔵されたビタミンCからも抗酸化作用を引き出すことが可能なんですね。ビタミンCはひとつの例に過ぎませんが、解離度の低いものを反応させる点に解離水の特徴があるわけです。

――先生はドイツのノルデナウの水も調査されたということですが、この水も同様な作用を持っているんですか?

花岡博士:98年に初めてノルデナウに行った際には、水の中に存在する特異な遊離イオンが存在するのではないかという仮説を立てていました。スーパーオキサイドラジカルを消去する「何か」が、人々の病を治していると考えたわけです。そこで採取した水を持ち帰って分析したのですが、ノルデナウの水そのものにはスーパーオキサイドラジカルを消す力がないことがわかったのです。もし、なんらかの遊離イオンが水の中に存在するのであれば、ノルデナウの水そのものに活性酸素を消去する力があるはずですが、そうではなかった。そこで私の仮説は崩れ去りました(笑)。ORPもマイナスではなくプラスの350ミリボルトを示していました。それなのに、なぜノルデナウの水は人々を癒すヒーリング・ウォーターであり得るのか。
実はノルデナウの水は、屋根瓦に使われるスレートの採掘坑道跡から凍み出している水なのです。スレートは粘板岩を薄く切り出したものですが、そこから沸きだす水は地殻のエネルギーの影響を大きく受けている可能性が高い。強い磁場を通過してきた水であれば、自然の力によって水の解離が進みますから、活性酸素を消す力を持っていても不思議はないのです。

――『奇跡の水』と呼ばれているヒーリング・ウォーターと解離水は同じ原理の水であるということですね。

花岡博士:そう考えて間違いないと思います。

――pIPという指標を示すことで、今後は何がどう変わっていくのでしょう。

花岡博士:現段階で解離水が生体に与える影響は、充分に研究されているとは言えません。わからないことの方が多いのです。もちろん溶媒とのインタラクションもきわめて重要ですが、IP理論に基づき、水の解離を基準に研究を進めていくことで、これまで解明されてこなかった還元水の持つ作用に説明がつくようになるのではないでしょうか。
さらにこの理論に基づいた電解水の力がドラッグデリバリーシステムに寄与できればと期待しています。ドラッグデリバリーシステムとは、副作用を最小限に抑え、患部で最大限に作用するクスリの投与法です。電解水の持つ力が理論をともなえば、応用技術もどんどん広がっていくのではないかと思います。

 

参考図書:主婦が体験した還元水の素晴らしい効能 家族の健康は台所から | 松浦尚子